富士山と槍ヶ岳は、日本の山を代表する2つのタイプである。(中略)一生に一度は富士山に登りたいというのが庶民の願いであるように、いやしくも登山に興味を持ち始めた人で、まず槍ヶ岳の頂上に立ってみたいと願わない者はないだろう。
山登りを始めて、「槍ヶ岳に登ったことある?」というフレーズは、ふとした会話の中でも出てくることがある。
どこから見てもそれと分かる先鋭的な山容は憧れの山であり、槍ヶ岳に登ったことがステイタスを持っているように感じるのも確かにある。
槍ヶ岳は、人を惹きつける魅力がある山には間違いない。(ちなみに、富士山にはまだ登ったことがない)
「いつも眺めていた山の頂上から見る景色は、どんな景色なんだろう」
「頂上に立った時に思うことは何だろう」
その答えが出る時がきた。
憧れの槍ヶ岳へのルートはいくつかあるが、是非ともこのルートを歩いて槍ヶ岳へ辿り着きたかった。
北アルプスの山々が丸見え、絶景の展望縦走ルート「表銀座縦走」
表銀座縦走の起点、燕岳登山口からスタートです。
気持ち良い朝。
念願の縦走コースに胸が高鳴り、足取りが軽い筈だが、樹林帯の登りと重いバックパックがそんな思いを少しずつ奪っていく。
尾根沿いに出てやっと、アルプスらしい景色が目に飛び込んできた。
槍ヶ岳を目指す表銀座ルートの最初の山「燕岳」。北アルプスのほぼ真ん中にある燕岳はアルプスの女王という異名をもつ山。
タイムスケジュールの関係で燕岳はスルー。
燕山荘からは、裏銀座の山が丸見えで絶景。
燕山荘で腹ごしらえして、本日の宿場である大天井岳を目指す。
天候と睨めっこして、1日ずらしのスタートが大成功した。稜線歩きは本当に贅沢な時間。少しのガスや雲が幻想的な世界を創り出してくれる。
2日目の朝。大天井岳に登ると、昨日まで見え隠れしてた槍ヶ岳が朝日に照らされて神々しい。格好良くて見ていて惚れ惚れする。
今まで歩いて来た稜線を振り返り、これから歩く路を想像する。太陽のエネルギーに背中を押して貰って、歩き出そう。
標高2,500メートルを超えると、頭が少し痛み出してくる。高山病で食欲低下や嘔吐、眠れないとまではならないけど、辛い。槍ヶ岳がまだあんなに遠い所にある。

どれだけ百名山が見えるねんってツッコミながら歩くルートはこの稜線以外にあるのかって思う。その分、過酷なルートでもあるのかもしれない。
一歩踏み出すごとに息が上がる。
たかが一歩、されど一歩。この一歩一歩の積み重ねが、憧れへの歩みとなる。

あんなに遠くに見えていた景色。景色の一部だったものが、目の前に現れた時、その聳え立つ存在感に圧倒された。
2日目の宿場である殺生ヒュッテに到着し、テントの設営が終了したと同時に雨が降ってきた。
少しの間の晴れ間で夕食と宴会も済ませて、日が暮れるまでテントの中で、食後のコーヒーを飲んでまったりと時間を過ごす。この就寝前の時間帯のコーヒーはデカフェに限る。

夜中、テントを開けるとこの景色。天気も心配なさそう。

いよいよこの時が来た。



「天に槍を衝く」その表現が最も相応しい槍ヶ岳。憧れの山の頂きに立った。
年齢を重ねる度に、涙脆くなって来たとは言え、ただただ心を震わせ涙したのは、いつ以来なんだろう。


長い道のりだったけど、思い返すとあっという間だった。
人生もこんな感じになるのかも知れない。
山歩きは、人生の縮図のようだと思うことがある。
ありきたりな表現で言うと、山あり谷あり。辛い時もあるけど、楽しい時もある。
これを乗り越えると、素敵な景色が待っている、そこに仲間がいると心強い。
これが、最初の問いかけ、
「いつも眺めていた山の頂上から見る景色は、どんな景色なんだろう」
「頂上に立った時に思うことは何だろう」
の答え。

この仲間で山旅できたことに感謝しかない。
集合写真の撮影者は、山を愛する写真家の、ともちゃん(今年はヒュッテ大槍で働ている)です。
ありがとう。
